講演会「インド経済の発展とインドにおけるビジネスと文化の関係」

講 師 ロイ 詩百瑠氏(NPO法人日本インド文化経済センター 理事長)
開催場所 京都産業大学 ナレッジ・コモンズ(図書館ホール)
開催日時 2024年7月24日(水)15:00~16:30

講演会概要

世界問題研究所では、2024年7月24日(水)に本年度第4回目の定例研究会として、図書館および文化学部との共催で講演会を実施した。ゲスト講師としてNPO法人日本インド経済文化センター理事長のロイ 詩百瑠(しとる)氏をお迎えし、「インド経済の発展とインドにおけるビジネスと文化の関係」というタイトルでご講演いただいた。
講演されるロイ詩百瑠氏
ロイ 詩百瑠氏は、株式会社ログレス貿易の代表取締役として世界約20カ国において輸出入を中核とした事業展開をされている一方、現在はNPO法人日本インド文化経済センター(略称NICE)の理事長として、主に文化・経済面における日印間の交流促進に尽力されている。最近は、日系企業からインド進出に関する相談を受けることも多く、インドにおけるビジネス展開に関するコンサルティングや支援の業務にも関わっておられるとのことである。また、インド人留学生の受け入れ促進や日本人学生をインドに送り出す際のサポートも行っておられる。インド・ベンガル地方の出身であるが、ご結婚を機に日本(京都)に移住されてから40年以上となる。現在は日本国籍を取得され、日本に帰化されている。ロイ氏は、国際都市である京都に他国の交流会館があるにもかかわらずインド関連のものが存在しない現状に疑問を抱き、インドと日本の国際交流を促進する拠点をここ京都の地に作りたいという強い思いから、NICEを立ち上げられたとのことである。

図書館長の大平 睦美 文化学部教授より開会のご挨拶を頂戴した後、ロイ氏のこれまでのご活躍の一端を知るため、講演の冒頭で10分程度のニュース映像を視聴した。映像は、2023年の5月に広島で行われたG7サミットの前後にロイ氏がテレビ局から取材を受けられた時のものであった。講演会は、①インド経済の発展と②インドにおけるビジネスと文化の関係という二部構成で進められたが、①においては、世界5位の経済大国としてのインド、モディ首相の掲げる経済・外交政策、最近のインドの人口動態などのトピックが、また②においては、インドに進出する日系企業の動向、インド式ビジネスマインド、インドでビジネスをする上で知っておくべきことといったトピックが取り上げられた。現場での豊富な経験に基づくロイ氏のお話は、時にユーモアを交えながら、インドの「リアル」をわかりやすく伝えるもので、聴衆はロイ氏のトークに大いに引き込まれた。
ロイ氏の講演に聞き入る参加者たち
今回の講演で参加者は現代インドに関して多くの知見を得ることができたが、今後のインドと日本の間の関係を考える上で以下の点は特に重要となるだろう。インドの急速な経済成長の背景には、モディ首相が推進している「メイク・イン・インディア」政策や「デジタル・インディア」政策がある。これらの政策は、国内での製造の促進や雇用創出、金融サービスのデジタル化、デジタル・インフラの整備などを通じてインドの経済成長を強く後押ししているという。また、株価の上昇や人口ボーナス(平均年齢約28歳、25歳以下の若者人口が全人口の55%)も経済発展に大きく寄与している。ロイ氏は、日系企業がインドに進出してビジネスを展開する際、成功のカギとなるのは、「同じ目線で理解しあうこと」である点を強調された。インドという国は未だ多くの課題を抱えているが、もはや途上国ではなく、インドの人々と接する場合も同じ目線での対等なコミュニケーション・対話が求められる。インドと日本は全く異なる文化を有しているものの、ビジネスの観点からは「ものづくり」を得意とする日本とマネージメントを得意とするインドが手を携えるならば、お互い最強のビジネス・パートナーになる可能性があると明言された。またインドでのビジネス展開にあたって知っておくべき事柄や、インドのビジネスマンに対する留意点についても非常に具体的かつ実践的な情報が提供された。ロイ氏の語りはいずれも現場での実体験に裏打ちされており、参加者に新たな視点や気づきを与えるものであった。最後に世界問題研究所所長の岩本 誠吾 法学部教授が閉会の挨拶を述べ、講演は盛会裡に終わった。

なお、講演会に参加した学生からは以下のような声が聞かれた。
  • 「インドは日本のことを尊敬しているというロイ氏の言葉に親しみを感じると共に、日本もインドのことをもっと知り、インドにもっと歩み寄っていくべきだと感じた。インドの経済発展には日本も見習うべき箇所が多くあり、今後はインドにもっと注目していこうと感じた。」
  • 「インドを一つの文化として見るのではなく、それぞれへの理解が必要ということは、これまでの学びの中でも感じていたが、改めて考え、学ぶ機会となった。また、問題点・注意点においては具体的な事例とつきあい方を提示されていて分かりやすかった。」
  • 「今回のロイ氏の講演は、異文化理解という観点でとてもよい経験になったと感じる。日本人の『上から』という偏見の視点ではなくお互いが対等に尊重できるような関係を築くことが大切だと分かった。」
  • 「今回の講演会を通して、私が一番大切だと思ったのは、『生の声を聞く』ことだ。生の声なしには、知識が一人歩きして、偏見が生まれてしまう。インド人の性質のように、とりあえず行動して、生の声を聞こうとすることが重要だと感じた。」
  • 「私は、今まで、インドと日本を近い存在だとあまり思ったことがなかったが、インドと日本は、互いを補い合う最高のビジネスパートナーになり得るのだと知り、驚いた。中でも、ビジネスにおける日本人とインド人の違いがとても興味深く、あまりにも正反対すぎるため、異文化理解や、ハングリー精神など、インド人には、日本人にはない、見習うべき点がとても多いと感じた。」
講演会後に行われた意見交換会には、ロイ氏、岩本所長、大平教授、耳野所員(現代社会学部長)、岑所員(経済学部教授)、志賀所員(文化学部教授)の他、インドでの滞在経験もある2名の学生(文化学部国際文化学科4年次生 琵琶 陸さん、同3年次生 本行 優さん)も参加し、講演会に引き続いて熱のこもった議論が展開された。「インドにおいて軍事分野での商談がうまく行かなかったと聞いたことがあるが、原因はどのようなところにあると考えられるか?」「日本に留学しているインド人学生の数は、現状非常に少ないと聞いたが、インド人留学生が日本に向かわないのはなぜなのか?」「インド人はマネージメント分野においても世界のトップ人材を輩出していると聞くが、何か理由や背景はあるのか?」「一般的に日本人は失敗を極度に恐れる傾向があるように思うが、インド人が失敗を恐れずチャレンジできるのはなぜなのか?」等の質問が寄せられ、活発な質疑応答がなされた。


講演会後の意見交換会の様子
世界問題研究所では「科学技術の発展と人類社会の変化」というテーマの下、文理融合・分野横断的な共同研究を行っているが、今回の講演会は研究テーマとの関わりで言えば「デジタル技術とインド社会・経済の関係」、視野をもう少し大きく取るなら「世界問題としての現代インド」を考える上で大変貴重な機会となった。今後も世界問題研究所は、学生や教職員にも開かれたこのようなイベントを開催することを通じて、学内における教育研究活動のみならず、種々の「世界問題」の解決に貢献していく所存である。
ロイ氏を囲んで記念撮影
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