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環境にやさしいクリーンなエネルギーを作ろうー地球温暖化対策の決め手は?ー
理学部・物理科学科 大森 隆准教授
地球温暖化の進行に伴い、地球規模の環境破壊が現実のものとなってきました。これを避けるには、原因とされる二酸化炭素を出さないしくみを考えなければなりません。二酸化炭素は石油・石炭などの化石燃料を燃やすことによって生まれます。化石燃料に替わるエネルギーの開発と、それを使って動く自動車や設備などの普及が急がれます。そんななかで、世界の大きな注目を集めているのが二酸化炭素をまったく出さない燃料電池車。そのエネルギーともなる水素を、どうすれば効率的に製造できるかを研究している大森隆先生にお話を伺いしました。
CO2の排出をこれ以上増やさないために
地球温暖化については、いくつかの原因が考えられますが、現在のところ最も有力とされるのが二酸化炭素(CO2)の急激な増加です(右図)。二酸化炭素は化石燃料である石油や石炭などを燃やせば必ず発生しますから、人が便利で快適な生活を求めて、ガソリンなどを使えば使うほど増加します。(下コラム参照)実際われわれはガソリンに限らず、電気やガスなど生活に必要なエネルギーの80%以上をこの化石燃料でまかなっています。そこで日本など、化石燃料の使用量の多い国々では、二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギーへの転換を、さまざまな形で図っています。
しかし課題は少なくありません。なかでも難しいのは、自動車の世界的な増加です。現在、東アジアを中心に多くの国が経済発展を続けていますが、それに伴い自動車の需要は急増、ガソリンの使用量はさらに増え続けると予想されています。燃料電池車とそのエネルギーとなる水素に、世界の注目が集まるのにはこのような背景があるのです。
二酸化炭素と地球温暖化
現在、多くの家庭で扱われている天然ガスを使った都市ガスの燃焼システムを化学式で書くと、次のようになります。
化石燃料は必ず、CO4のようにC(カーボン)を含みます。ですから酸素と反応すると必ずCO2(二酸化炭素)が発生するのです。CO2は空気中では極めて安定的な物質で分解されにくく、排出されると空気中に留まりやすいという特徴をもっています。
一方、太陽から注がれる光は地表の温度を上げます。その時発生する熱のほとんどは大気圏に逃げていきますが、一部はCO2などによって大気中に蓄えられます。いわゆる温室効果です。温室効果をもたらすものとしては、他にCO4(メタン)やNOX(窒素酸化物)、フロンなども考えられていますが、CO2が全体の6割を占めるとされています。CO2が増えれば、それだけ大気中に蓄えられる熱の量は増えるのです。
地球温暖化の原因については、このほかに太陽活動を原因とする考え方もありました。しかしこれは何千年、何万年を単位として地球の気温の変化を考えています。ここ50年、100年の間での気温の上昇はあまりにも急激で、この尺度で考えるには少しムリがあるようです。50年、100年といえば、地球の歴史を一日に換算するなら、それこそ一秒にもまったく満たない一瞬の時間です。この100年間で世界で0.6度、日本で1.0度上昇するというのは、やはり温室効果によるものと考えざるを得ないのです。
水素を使ったエネルギーシステムは光合成と同じ
燃料電池車は、水素を酸素と反応させて得られる電気エネルギーを使って走ります。この時発生するのは、水(水蒸気)だけ。まったくクリーンな車で、エコカーといわれる理由です。これなら、どんなに増えても二酸化炭素は増えません。
エネルギーを供給する燃料電池のしくみはいたって簡単です。燃料となる水素を作る方法はいくつかありますが、環境への負荷が最も少ない太陽電池などで得られた電気エネルギーを使って作る場合、その仕組みは中学校の理科で習った水の電気分解そのものです。水に電気を流すと、そのエネルギーで水素と酸素が発生します。化学式で書くと2H2O→2H2+O2でしたね。そして反対に水素と酸素が反応すると水ができ、電気エネルギーが発生します。この後の方の反応が燃料電池でエネルギーを発生させる仕組みで、しかも二つの反応は簡単に循環させることができます。
これとよく似たしくみは、自然界にもあります。植物の光合成です。やはり中学校で習ったことの復習になりますが、植物は日中、光のエネルギーと水と二酸化炭素とを反応させ、ブドウ糖(化学エネルギー)をつくり、酸素を出します。そして、このブドウ糖を、自らの成長に必要なエネルギーとして使うのです。また、植物を食べた私たち人間や他の多くの動物も、ブドウ糖を成長や繁殖のエネルギーに変えます(このときいずれも二酸化炭素を出します)。これを式で書けば、以下のようになります。
二つの反応に共通するのは循環型のシステムになっていることで、しかもその過程で外へ逃げていく物質がまったくないということです。光合成は太古から行われてきた自然界の営み、というか自然そのもの。水素を使ったエネルギー供給のシステムも、その光合成と同じで環境にはまったく負荷を与えないシステムなのです。
水素製造はこれからの分野
水素を使ったクリーンなエネルギーシステムの開発は、水素と酸素を反応させる燃料電池の工程と、水を電気分解して水素を取り出す水電解の工程とに分かれます。(右図)私たちが取り組んでいるのは主に後の工程で、電気化学を基本技術として、どんな電解槽で、いかに効率よく水素を製造できるかについて研究します。この分野は、自動車産業が中心となり、巨額の予算をつぎ込んで開発を行っている燃料電池の分野と同様に、まだまだ解決しなければならない問題をたくさん残しています。
電気エネルギーをどのようにして、しかも低いコストで手に入れるのかが、まず問題です。太陽電池、風力発電などクリーンな発電はかなり増えてきていますが、全体でみればまだまだごく僅か。コストもいまだ高く、多くの企業は水素を化石燃料から抽出しているのが現実です。
私たちが直接関わる水電解の分野でも、いかに効率よく低コストで水素を製造するかが大きな課題です。たとえば、電極に貴金属を使えば短時間でより多くの水素を発生させることができます。しかしそれでは、コストが高すぎて実用には使えません。
エネルギーとして安定的に供給するための貯蔵の問題もあります。水素を高圧にして溜める場合はそれほどでもありませんが、液化して蓄える場合には、水素を作るコストの50%ほどのコストが余計にかかってしまいます。
現在、たくさんの研究者がクリーンなエネルギー・システムを構築するために、世界各地で日夜研究を行っています。しかし今のところ、この方法が一番いいというものはありません。また、今考えられている方法が将来すべてうまくいくともかぎりません。今後は、それぞれの分野・領域においてさまざまな技術が発展していくものと考えられますが、自分としてもその一翼を担いたいと思っています。
成果が問われるのはこれからです。若くて斬新なアイデアと、根気よく実験を積み重ねる地道な努力の両方が、今求められているのです。
アドバイス
高校生へのメッセージ
“環境”は極めて現代的なテーマで、学生の関心も年々高くなってきています。物理科学科の中に置かれていますから、当然物理を学んでくる学生が多いですが、電気化学が基本技術となりますから、化学の基礎についても一通り学んできてもらえればベストです。また環境は学際的とか、境界領域といわれる学問の中でもその代表格。文系からのアプローチや、文系的な問題意識をもつことも大切です。またこれまでのように狭い分野に閉じこもって研究ばかりしているのもダメです。常に周辺分野、関連する領域との交流を怠らないようにしたいものです。
卒業したら…
卒業後、企業で即戦力となって活躍しようと思うなら、やはり大学院進学までを視野に入れたほうがよいと思います。4年間だけだと、せっかく研究を覚えたところで終わりという感じです。今のところ、この学科を卒業することで得られる特別の資格というものはありません。しかし、現在はどんな企業でも環境はキーワード。対応する部署を設けているところも少なくありませんから、活躍するフィールドはどんどん広がっていると言えるでしょう。
理学部・物理科学科 大森 隆准教授
- プロフィール
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電気化学の研究を通して環境問題に取り組む。「電気化学は環境・エネルギー分野ととても相性がよく、クリーンエネルギーの研究ではポイントとなる学問領域」だという。京阪奈にあるRITE((財)地球環境産業技術研究機構)では4年間、CO2対策に関する研究開発テーマに本格的に取り組んだ。「ひとたび研究者としてやるからには、その時代で最も大事な問題に取り組んでみたい」からだ。「温暖化という深刻な問題がある。それを止めるには化石燃料からクリーンエネルギーへの転換が急務。その代表選手は水素だが、地球上には少量しか存在しないから作っていくことが必要。それならどのようにつくるのか。無尽蔵でクリーンな太陽エネルギーを使うのが一番ではないかと研究の目的についても明確だ。
学生からもいろいろなアイデアをもらいながら、コツコツと実験を続けるのが好きだ。