宇宙の起源は?ー宇宙物理学を駆使してここまでわかった宇宙の謎!ー

理学部・物理科学科 原 哲也教授

 古代エジプトで発達した天文学から、20世紀に入ると宇宙の成立や宇宙エネルギーに関する現象を研究する新しい学問−宇宙物理学が誕生しました。しかし「宇宙は何でできている」「宇宙の始まりは…」などという、素朴な質問に答えられるようになったのは、実はずいぶん最近のことなのです。でも、まだ宇宙の96%は謎多き物質・エネルギーで占められているのです。

宇宙の端っこには壁がある―遠い星の光は昔のもの

 まず、宇宙の全体像をイメージしてみましょう。宇宙は私たちが住む地球や火星などの惑星が集まって太陽系をつくり、こうした天体の集団が銀河系を形成し、銀河系が数百とか数千個集まって銀河団をつくり、これが宇宙全体につながっていくのです。地上に住む私たちから見ると、宇宙は限りなく広がっているように思えます。でも、もっと遠くには、そのまた向こうには何があるのだろうか。宇宙はどこまで続くのだろうか? これを考えるのが宇宙物理学なのです。
 宇宙解明の手がかりとなるのが遠く輝く星の光。星の光が私たちの目に届くには、時間がかかります。私たちがその光を目にするまでに、何千年、何万年もかかる遠くの星だって珍しくありません。また、地球に届くまでに、その星は爆発して無くなってしまっている可能性さえあるのです。こうして遠い星の光、もっと遠い昔の光というように、私たちは宇宙の歴史をさかのぼって観察し、宇宙の姿を研究しているのです。

 では、一番遠くの光はどうかと言うと、そこが宇宙の始まりであり、宇宙の端っこ。この壁の向こう側、つまり宇宙の始まり以前に光を放った星は存在しないのです。


宇宙は大爆発(ビッグバン)から生まれた

 宇宙が「ビッグバン」という大爆発によって生まれたと聞いたことがあるでしょう。およそ137億年前、何もないところにとても小さな宇宙のタネが生まれました。生まれると同時に急激に膨張(インフレーション)し、引き続いて大爆発したのです。これが「ビッグバン」と呼ばれています。
 この宇宙に「ゆらぎ」という銀河形成の小さなタネが発見されたのは1992年のこと。発端となったのは、アメリカのベル研究所が1965年、遠く宇宙のあらゆる方向からやってくるマイクロ波の電波雑音(宇宙背景輻射と呼ぶ)を観測したことから始まります。波長1mmあたりが一番強く、温度に換算すると絶対温度2.7度(零下270度)にきれいにそろっているのです。これで、大昔の宇宙は密度が高く熱かったが、爆発による膨張で零下270度まで冷えてきたと考えられ、このことからビッグバン宇宙説が高く評価されるようになったのです。
 そして、アメリカのNASAが打ち上げたコービー衛星が、1992年に10万分の1度という宇宙背景輻射の温度「ゆらぎ」を発見しました。これらを解析した結果、宇宙年齢や宇宙の曲率などが判明し、宇宙物理学は新しい大きな一歩を踏み出すことになったのです。  これまで「宇宙は無限の過去から未来まで膨張している」という定常膨張説を主張していた研究者も、宇宙の始まりを認めざるをえなくなったのです。これで、ようやく宇宙の端(初期)から宇宙を語ることが可能になったのです。

宇宙の大部分を占めているのは「ダークマター」や「ダークエネルギー」

 その成果を、化学や物理の授業で学んだ元素を例に具体的に考えましょう。すべての元素は宇宙で作られます。宇宙の端から内側を見るというのは、宇宙の歴史を元素の種類によって見ることができるということです。つまり軽い元素は宇宙の初期に作られたから隅っこにもあり、炭素Cをつくるには何千万年、何億年かかるからもう少し内側にあり、鉄Feなら星の中でつくられますが、ウランやプルトニウムは星が爆発しなければつくれないのです。
 しかし、宇宙は元素だけでできているのではありません。それどころか「ダークマター(23%)」とか、「ダークエネルギー(73%)」と称される怪しげな「暗黒の物質」があり、これらが宇宙全体の96%を占めていることが、2003年にWMAP衛星の「ゆらぎ」のさらに詳しい観測により分かりました。
 「ダークマター」というのは、銀河や銀河団に集まってくる物質です。しかし、質量はあるのですが見えないのです。動き回ってますが、光を出さず、赤外線やX線などでも観測できません。でも、これがないと先ほどの「ゆらぎ」が成長して銀河を形成することはできないのです。
 最近になって、宇宙の誕生から今日までの歩みを予測できるようになりましたが、宇宙の大部分を占める「暗黒の物質」の正体の解明には残念ながら至っていないのです。宇宙物理学の分野で、これから解明しなければならない問題が山積していることが理解できるでしょう。

137億年前にでき上がった宇宙が解明され始めたのは最近のこと

 数々の研究者が長年にわたって挑んできた宇宙。だが、21世紀の今になっても、宇宙を知り尽くすことなどまだまだ遠い将来の話です。宇宙は137億年以上前にでき上がったというのに、1965年に宇宙背景輻射の発見、1992年にゆらぎの発見と2003年のその精しい観測という大きな成果が相次いだのはごく最近のことなのです。ビッグバン理論が出てきてまだ100年にもなっていないのです。
 宇宙には銀河が集中しているところと、あまりないところがあります。この偏りを昔は数値計算していました。もっともこれは5億光年くらいの距離で見たらの話で、最近では100数十億光年まで見られるようになった結果、大きく見ればそれほど偏っていないことがわかってきました。どうしてこのような数億光年のスケールの大規模構造が宇宙で形成されたのか一刻も早く知りたいですね。
 それからダークマターやダークエネルギーの研究。ダークエネルギーのある宇宙では、私たち太陽系のある銀河系は、あと数百億年たてば近くにあるアンドロメダ銀河に近づき合体し、巨大な銀河になると予測されています。こうした宇宙の大規模構造や「ゆらぎ」のパターンの解明。ダークエネルギーの関連でブラックホールとは何なのかの解明など、興味が尽きることがありません。

夢とロマンに満ち溢れた「宇宙」に挑戦する

人間を魅了するミクロと無限の世界

 理科系志望者、なかでも理学部物理科学科を考えている受験生にとって、「宇宙物理学」に寄せる関心は高いものがあります。ミクロの世界を追求する「素粒子論」とともに「宇宙物理学」は魅力に満ちた学問分野の双璧になっています。見えない世界、想像もつかない世界は、これから学ぼうとする人間を魅了するようです。
 とくに「宇宙」は、古くから多くの研究者が解明に取り組んできました。その努力が実って、少しずつ解明されてきたのです。ケプラーが惑星の運行軌道を説明し、ニュートンの万有引力がこれを裏付けました。そしてアインシュタインの相対性理論で「宇宙」での物理学の礎が固まり、「宇宙物理学」が大きく歩みだしたのです。
 「宇宙」での距離の表し方に光年という単位があります。光は1秒間に30万キロ進み、この速さで1年間進む距離を1光年と呼びます。地球から何億光年という表現を見聞きしますが、実感することは困難です。こんな壮大な世界を研究する醍醐味を「宇宙物理学」で味わってください。

「研究者」はもちろん、学生の深い洞察力に「企業」の熱い関心が…

 「宇宙物理学」を学んだといって、簡単に民間企業で活かせる学問ではありませんが、企業の関心は高まってきています。ビジネスの場を宇宙にまで広げようという動きが目立つようになって来たからです。
 現時点では、研究者として大学や研究所に勤める人がほとんどです。また、アメリカに渡って研究したり、「宇宙」に力を注ぐ企業の研究職に就職する人も見受けます。いずれにしても、未知の部分に深い関心を寄せる若者に、分野を問わず社会全般から熱い関心が寄せられています。

理学部・物理科学科 原 哲也教授

プロフィール

 ふと夜空を見上げる感覚は、宇宙物理学者の原先生といえども私たちと同じ感覚だ。「冬はオリオン座がきれいだなとか、夏には織姫星(ベガ)と彦星(アルタイル)、白鳥座(デネブ)を結んだ夏の大三角形を探します」とのこと。休日は絵画を描いたり、のんびりと各地の庭園を見て過ごすことが多いという。研究室には美しい黄色を基調とした油絵の作品や、緑豊かな庭園の写真が飾られ先生の人柄が現れています。

 理学部物理科学科教授。専攻は宇宙物理学(天体核物理学)。宇宙の大規模構造・銀河形成などの研究。

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