いま菊川は「雲の自動識別」の特別研究に取り組んでいる。これは従来は人の目で行われることが多かった天気予報の「晴れ」と「曇り」の判別を自動的に行えないかという試みだ。
この試みには、全天画像の観測機器やAIプログラムの開発などが必要で課題も多い。ただ菊川にとっては研究過程で、実際に空を日の出から日没まで連日観測してデータを収集し、様々な雲の動きや形を見るといった経験がなにより印象的だったという。
自然界に当たり前のように存在してる雲だが、実はその成り立ちには決まったメカニズムがある。研究室の窓の向こうに目を向けながら菊川は言う。「気象学を学んでいると『なぜこの雲があると荒れた天気になるのか』『なぜこの季節にこういう雲があると雪が降るのか』と、ただ雲を見上げるだけでも思考の広がりが違ってきます」。
菊川にとって数学や物理学の学びとは、いわば「自然界の当たり前」を解き明かしていくものだった。
当たり前のメカニズムを知る前と後では世界はまるで違って見える。だからこそ学び続けることに意味がある。
「将来、自分がどんな仕事やプロジェクトに取り組んでいるのか今はまだ見えませんが、学びによって自分をアップデートできれば何があっても前に進めると思います」。
特別研究を通じてそんな気付きを得られたのだと、菊川はわずかに顔をほころばせた。
※掲載内容は取材当時のものです。