起業を目指す仲間と、起業に挑む。
2024.04.01
下村はずっともどかしかった。留学先の寮のキッチンでは、多くの留学生が集まって話をしている。
初対面の学生同士が出会ったとき、必ず聞かれる質問は「何を勉強しているの?」というものだ。日本なら「ドイツ語を勉強している」と答えるが、ここでは相手が納得してくれない。ほとんどの学生はドイツ語で社会学やソーシャルメディア、医療などを学んでいる。言葉はツールでしかない。そんな真実を突きつけられる日々だった。
2年次の春から約1年間。ドイツ・ケルンへの留学は、下村にとって大きな転換点になった。ドイツ語は結論ありきの言語であり、ドイツ人も目的を重視する気質がある。高校卒業後に目的を探すため1年ほど放浪した友人もいた。一方、自分は決められた形の進路をたどっていくだけ。本当は何がしたいのか。
日本に戻り、下村が自身のテーマに据えたのは移民問題だった。移民受け入れの先進国であるドイツの景色が、日本の未来に重なって見えた。目的さえ定まれば、やるべきことは次々と湧き出てくる。移民に関わるODAや企業でのインターンシップ、移民社会に向けての多様性教育の調査……。そして下村は、再びケルンへ旅立つことを決めた。
「1年前の留学では学べなかったことに、今度は全部挑戦したいと思っています」。留学先で何度も問われた自身の学び。今の彼女なら、確かな意思を灯した目で答えるのだろう。自らの未来のためにやるべきことを。
※掲載内容は取材当時のものです。