京都産業大学に入学した頃からプロ入りが有望視されていた北山にとって、1年次に受講する共通教育科目「自己発見と大学生活」は小さな転機となった。自分の今とこれからを文章と図で表現したり、グループワークで目標設定や学び方を考えたり。学部の壁を越えて編成されるクラスでは、文系と理系の価値観が混ざるなど、それぞれの学生が描く将来像を知ることが北山にとっては新鮮だった。
何よりグループワークの中で気の合う友人ができた。「こないだの試合、すごかったな」。北山の大学でのファン第1号であり、野球の話以外でも盛り上がる仲になった。
一方、野球でも北山は順調に力を付けてきた。1年次からマウンドに上がり、秋の関西選手権では4日間連投のクローザーとして獅子奮迅のピッチングを見せた。3年次になった現在は、キャプテンを務める。立場上マネジメントも行うようになると、チームの調子の浮き沈みにも敏感になる。
そんなとき、北山は「人に求めている間は何も変わらない」と自身に言い聞かせてきた。チームが停滞しているとき、全員が前を向くためには、いくら言葉を尽くしても伝わらない。先頭に立つ者が前を向いて最初の一歩を踏み出すしかない。それに気付いてくれるメンバーがいれば、いつかチーム全体が動き出す。
「今度また、回転寿司でも行こうや」。久々に大学で会った友人が、変わらず声を掛けてくれる。チームの調子がいいときは「すごいな」と一言。悪いときには「ご飯でも行こう」。そんなふうに少しだけ気を使ってくれていることに最近、気付いた。いい大学に来たと思った。もし自分に野球しかなければ、「人に何かを求めない」強さは、きっと持てなかっただろう。ただ一つのキャンパスには、さまざまな人とのつながりがあり、世界の広がりがある。
今、大学内に貼られている「ONLY ONE CAMPUS」というポスター。中でも、ひときわ大きな一枚に写る手は、北山のものだ。撮影のときどんな気持ちだった? と聞くと、北山は少しうれしそうだった。「自分にとっては“ナンバーワン”のキャンパスです」。
※掲載内容は取材当時のものです。