日本三大祭りの一つであり、2019年に創始1150年を迎えた祇園祭。長い歴史を誇る一方で、町内の人材不足やスタッフの高齢化といった課題を抱え、住民のいない函谷鉾(かんこぼこ)町も同様に悩む。文化学部 小林 一彦教授のゼミ生を中心すると学生たちは、「函谷鉾(かんこぼこ)」の運営に2013年から携わり、函谷鉾保存会と協働して伝統文化の継承に取り組んでいる。
函谷鉾の運営支援に関わり始めた経緯を教えてください
胡麻﨑さん: 本来、山鉾の運営基盤は各山鉾町にあるのですが、私たちが関わる函谷鉾町は四条烏丸にあり、今は住民が一人もおられません。そのため伝統文化の継承に向けて、文化学部の小林一彦先生がゼミ生の有志を集めて2013年に保存会の方々をサポートするようになったのが、この活動の始まりです。大阪出身の私は、子どもの頃から京都が大好きで、歴史と伝統ある祇園祭の運営側に携われる魅力は大きく、伝統や文化の継承について多くのことが学べると考えて、この活動に参加しました。
笹さん: 私自身、文化学部の入学動機が観光系の仕事に就くためでしたから、函谷鉾の運営支援はとても興味ある取り組みに感じました。あわせて地元の和歌山にいた頃から京都への憧れが強く、京の伝統文化が凝縮されている祇園祭に関われることにも魅かれ、迷うことなく活動に加わりました。
どのようにして活動へ参加するのですか?
胡麻﨑さん: まずは文化学部1年次のフィールド演習科目として参加し、翌年以降も函谷鉾の運営支援に携わりたいと思えば、小林先生のゼミ生になって活動を続けます。今年は、1年次生を含む50人ほどの学生が函谷鉾の活動に参加しました。
笹さん: 活動の目的は、函谷鉾の運営を通じて祇園祭という京の伝統文化を内側から深く学ぶこと。祇園祭には創始1150年の長い歴史があり、数多くの資料や文献からその歴史を勉強することが可能ですが、運営という内側に入って得る学びの奥深さは、資料や文献から得られるそれとは全く異なります。
具体的にはどのような活動をするのですか?
胡麻﨑さん: 祇園祭向けた活動は4月に始まり、祇園祭や函谷鉾の歴史、由来などを学びます。1年次生の多くは、1000年を超えて町衆が祇園祭を受け継いできたこと、多くの懸装品が重要文化財の指定を受ける山鉾が「動く博物館」と呼ばれていること知って驚きます。
笹さん: 5月にはゼミの合宿があり、3年次生が新加入の2年次生に最初に教えるのは、トランシーバーの使い方。「なぜトランシーバー?」と思われるはずですが、運営支援の活動がピークになる山鉾巡行前の宵々山や宵山の人混みはすさまじく、現地でメンバー間の連絡を取りあうにはトランシーバーが必須のアイテムになります。
胡麻﨑さん: 6月に入ると、函谷鉾保存会の方々との顔合わせや担当業務の分担などに関する打ち合わせを進めます。この頃、囃子方(はやしかた)のお稽古を見学させてもらうのですが、身近で聞く「コンチキチン」の生音に全員が感激することになります。以降は、厄除けの粽(ちまき)づくりのお手伝いも始まります。
笹さん: そうして迎えた7月上旬には、待望の鉾建てがスタートします。鉾建てが行われる2日間、私たちは交代で職人さんへのお茶出しを行い、準備をサポートし、まるで町民の一員になったような感覚を覚える瞬間でもあります。なお、鉾は釘を1本も使わず、縄で縛って組み立てられるのですが、初めて見たときは想像以上の大きさと懸装品の豪華さに感動しました。
胡麻﨑さん: 鉾が無事に立てば、鉾がきちんと動くかどうか試運転する「曳き初め」が行われます。その際、フィールド演習として参加する1年次生は鉾を曳く列に加わり、2年次生や3年次生は交通整理などを担当します。曳き初めの後は、鉾の横に建てた天幕テント下での粽や手拭い、扇子などの物販、鉾にあがる方々の案内や来客の接遇などをメンバーで手分けしながら行います。
笹さん: 四条通が歩行者天国になる宵々山、宵山は、函谷鉾の前を行き交う数百万人の交通整理に奮闘します。この間、最も大切なのは適切な人員配置を行い、かつ水分補給や休憩による体調管理をチームとしてしっかりすることです。通常でも暑い京都の夏、人混み内の暑さは並大抵ではありませんが、スタッフが熱中症で倒れるわけにはいきません。特に祇園祭の興奮に初めて包まれる1年次生は、担当業務に熱中し過ぎて周りが見えなくなることがあるため、気をつけるようにしています。
この活動を通じて得たことを教えてください
笹さん: 観光客の方々にすれば、私たちは「地元の若者」として認識されるため、函谷鉾のことだけでなく他の山鉾がある場所や交通網についても質問されます。どんなことを質問されても答えられるよう、函谷鉾や祇園祭のことはもちろん、京都そのものを勉強するきっかけになりました。また、外国人観光客がとても多く、英会話を実践する機会にもなりました。また、チームとして活動に取り組み、協調性やリーダーシップが養えたことにもメリットを感じます。
胡麻﨑さん: 保存会の方々や囃子方の皆さんが、ひたすら函谷鉾を守ろうとされている姿勢から、伝統文化を次代に継承する一助になりたいと強く思うようになりました。文化学部の学びに励む意欲がさらに高まり、この活動を通じて得た成果の一つだと思います。メンバー全員がスムーズに仕事ができるための担当業務の割り振りや後輩の育成など、ハードで苦労の絶えない活動ですが、囃子方の皆さんと同じように6月頃から心が浮き立ってくることを誇らしく、かけがえのない体験だと思います。
最後に今後の目標を聞かせてください
笹さん: 京都はもちろん、日本が世界に誇る祇園祭の運営に関わる貴重な経験を後輩たちが取り組み続けられるよう、そして保存会の方々から引き続き「函谷鉾にとってなくてはならない存在」と言ってもらえるよう、チームの基盤をさらに強固にするのが目標です。個人としては、活動を通じて培った京の伝統文化に関する知識やチームワークのスキル、リーダーシップを卒業後に目指す観光系の仕事に活かしたいと思っています。
胡麻﨑さん: 伝統文化の継承には人材の確保も重要ですが、当然ながら資金も必要です。それもあって今年度はゼミでアイデアを練り、函谷鉾の新たな授与品を提案しました。今年度の販売には至りませんでしたが、若者の中で人気の授与品となるよう仕上げることが来年度に向けた目標です。保存会や囃子方の皆さんから受けた影響はとても大きく、私自身も地元の文化継承に貢献できる人になりたいと思っており、文化継承のエキスパートを目指したいです。
※掲載内容は取材当時のものです。