世界文化遺産に指定されている「上賀茂神社」。学生たちが中心となり、その魅力を発信している。授業やボランティア活動を通して、より多くの人々に世界遺産やその伝統行事を楽しんでもらうイベントを企画。近年注目を集める世界遺産をいち早く学習に取り入れ、伝統を理解しながら柔軟な視点で新しい価値を生み出す。今後もさまざまな形で協働し、京都の魅力を広めていく。
上賀茂神社での活動に参加しようと思ったきっかけは何ですか?
平松さん:昨年度、別の ※1 PBL 型の授業で上賀茂神社さんと一緒に神社の伝統行事である観月祭を盛り上げるという取り組みに参加していました。その授業の先生に、今回の世界遺産PBLを勧められて、やってみようかなと思ったことがきっかけです。また、他大学の学生も参加する授業なので、自分と異なる考えを持った学生と触れ合ういい機会だと思ったことも理由の一つです。
若松先生:今回授業で取り上げたのは、上賀茂神社さんの伝統行事である「水まつり」です。水まつりは伝統行事の中でも比較的新しく、学生の意見を反映しやすいということもあって、斬新なアイデアをどんどん出していこうと課題に設定しました。彼のように経験者がいるのはとても心強かったですね。
西澤さん:私はボランティアサークルの活動の一環で関わらせていただいているのですが、大学のある地域に根差した活動がしたいと常々思っていました。上賀茂神社さんは京都産業大学からとても近いところにありますし、何かできないかと考えていた時に、先輩から「絵馬みこし」のお話を聞いたことがきっかけです。少しずつでも絵馬みこしというイベントがこの地域に浸透して盛り上がっていくよう協力できればと思っています。
※1 PBL…京都産業大学では、社会人基礎力を育成するカリキュラムとして「実践的PBL型教育」プログラム(O/OCF-PBL)を推進している。「O/OCF-PBL(On/Off Campus Fusion-Project Based Learning)」は、課題解決活動を通じて実社会で必要となる心構えや能力を身につけるために設定された科目。
7月26日に行われた「水まつり」では、学生が中心となって巨大百人一首や流しそうめん、お茶会、ツイッターによるフォトシェア、絵馬みこし・樽神輿渡御、奉納演奏などを企画。上賀茂神社を訪れた多くの参拝者がイベントを楽しんだ。企画提案から事前準備、当日の運営まで学生が関わり、神社の伝統を感じながら大人から子どもまで楽しめるイベントづくりを行った。
水まつりでの取り組みはどのように進められたのですか?
平松さん:私たち学生が水まつりを楽しんでもらうための企画を考え、提案したのですが、まずは私たち自身が上賀茂神社を知るところから始めました。地域の人々や世界遺産関係者の方々にお話を聞くため、インタビュートレーニングをしたり、アンケートを使って調査したりして神社への理解を深めました。その後、話し合いを繰り返して内容を詰め、神山さんに提案し、何度も打ち合わせをして当日を迎えました。当日は多くの方に楽しんでいただくことができたので、達成感がありましたね。
若松先生:流しそうめんなどは衛生面も考慮しなくてはいけないため、市役所や保健所とも交渉するなど、普段関わることのない外部の方と接しながらの活動になるので、学生たちも学ぶところは多かったと思いますよ。PBL型の授業の良いところは、活動を通して「自分たちができること」と「周りの人の力を借りなくてはいけないこと」を感じながら役割分担し、目標に向かって協働していくという体験ができることです。状況をきちんと把握していないとその判断はできないですからね。地域活性化というお題に対して、学生なりの意見・考えを持って解決していく。その過程で大変だったこともあったと思いますが、それも含めて多くのことを感じ取っていってほしいです。
平松さん:大変だったことで言えば、学生同士の打ち合わせです。他大学の学生も参加しているので予定を合わせるのが難しく、なかなか集まれなくて。メールなどのやり取りだけではやはりうまく意思疎通できないので、実際に顔を合わせたときにいかに効率よく打ち合わせを進めるかに苦労しました。また、広報活動も難しかったですね。今回はSNS等での情報発信に加えて学内でのビラ配りも行ったのですが、もっといろんな人に来ていただける方法を考えるのが、今後の課題です。
上賀茂神社の境内を、みこしをかついで練り歩く行事。みこしには子どもたちの夢や願いが込められた絵馬がはめ込まれており、地域の平和や幸福を願うものとして、本学学生や卒業生が中心となって活動。地域との交流を図り、まちを盛り上げている。
絵馬みこしの活動についてはいかがですか?
西澤さん:絵馬みこしの活動で一番大変だったのは、地域の人々へ協力をお願いすることでした。絵馬みこしは周辺地域の子どもたちの夢を描いた絵馬があって初めて完成するので、みんなで幼稚園や小学校をまわって協力をお願いしました。教育機関は年間の行事がすでに決まっているところが多いので、その合間を縫って絵馬を用意していただくことになります。自分たちの予定だけではなく、相手の予定を考慮しながら行動しなくてはならないので、その調整には苦労しました。
若松先生:彼女たちの活動は昨年はゼミで行っていたのですが、今年はボランティアサークルが引き継ぎました。そのため、外部への交渉や依頼はすべて一から行わなければならなかったんです。何をするにも一番はじめが大変。学生だけで各所をまわりイベントを成功させるのは、難しいからこそ意義のあることだと思いますよ。
今後の目標について教えてください。
西澤さん:絵馬みこしの活動については、今後も継続していきたいと思っています。絵馬を集める際に、来年のイベントにもぜひ参加してほしいとお願いしたり、メンバー内での引継ぎをきちんと行ったりして、より良いものを残していけるよう頑張っています。また、広報活動にはもっと力を入れていきたいですね。これまで以上に多くの地域の人々を巻き込んで絵馬みこしを担ぎたいと思っています。
神山さん:学生さんたちに協力していただいて、神社としてもとても助かっています。今年の水まつりの流しそうめんなどは多くの人に楽しんでいただけましたし、好評でした。今後の課題としては、行事から参拝につながるように、鳥居の外だけではなく中も盛り上げていくことですね。今年は式年遷宮の年でもありますし、今後も学生さんの斬新な意見を活かして、多くの人に世界遺産である上賀茂神社の魅力を知ってもらいたいと思います。
若松先生:授業の趣旨は水まつりをはじめさまざまな行事を通して、上賀茂神社の伝統や魅力を深く理解していくことにあります。そのため、授業以外でも神社のイベントには積極的に参加するよう学生たちにも呼びかけていて、実際に参加してくれる学生も増えてきました。このような活動を通して地域と大学との信頼関係を深め、今後も何らかの形で関わり続けていきたいと思っています。“世界遺産が隣接する大学”という本学ならではの特色を活かして、神社とまちの活性化とともに学生たちにも成長していってほしいです。
賀茂別雷神社(上賀茂神社)
※掲載内容は取材当時のものです。