ウイルスとは何か?
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コロナウイルスについて説明する前に、まず、そもそもウイルスとは何かについて説明しましょう。ウイルスは、微生物の仲間に分類されています。微生物とは、肉眼には見えない「微小な生物」の総称です。目に見えない、というだけのおおざっぱな分類なので、真核生物(原生生物、藻類、真菌)、原核生物(真正細菌、古細菌)、ウイルスなど、多様な仲間が微生物に含まれています(図1:微生物の仲間)。なかでもウイルスは、必ずしも生物とは言い切れないという点で、他の微生物と大きく異なります。現在、最も広く受け入れられている「生物の定義」は、(1)外界と膜で仕切られている、(2)代謝を行う、(3)自己複製する、の3つです。例えば、細菌(バクテリア)は、上記の3つの条件をすべて満たしているのに対し、ウイルスは、自身で代謝を行うことも、また、自力で自己複製を行うことも出来ません。いずれも、他の細胞に感染することで、自己複製を行うのです。細菌とウイルスは、どちらも目に見えず、感染症の原因になるので、似たようなものだと思われがちですが、この両者は生物学的には大きく異なるのです。ただし、ウイルスは非常に「生物っぽい」ので、ウイルスも生物として扱うべきである、という専門家もいます。実際、生物学や生命科学の重要なトピックスのひとつとして扱われています。つまり、ウイルスは、生物なのか無生物なのか、専門家でもアタマを悩ませている、とても不思議な存在なのです。
ウイルスは単独では増えない
感染を防御する観点からも、ウイルスと細菌の違いを理解する事は重要です。細菌は、栄養や温度などの条件が最適であれば、分裂を繰り返して増殖します。例えば、食べ物を冷蔵庫に入れずに室温に放置すると、細菌が増殖して、食中毒のリスクが高まります。ですので、細菌の増殖を防ぐために、食べ物や飲み物を冷蔵庫にしまうことで、食中毒になるリスクを下げることができます。ところが、ウイルスは、いくら栄養を与えても、単独で増殖することはありません。すべてのウイルスは、宿主となる細胞に感染しないと増殖できないのです。ですので、宿主となる生物がいない場所でウイルスが高濃度で存在することは、通常ありません。したがって、宿主となる生物との接触を避けることが、ウイルス感染のリスクを下げる最も有効な手段となるわけです。
ウイルスの特徴
ウイルスの特徴は、①最小の微生物である(大部分は20~300nm)、②細胞構造が無く、タンパク質と核酸からできている、③核酸はDNAかRNAのいずれか一方を持つ、④生きている細胞内でしか増殖できない(偏性細胞寄生性)、④細胞内の増殖過程にはウイルス粒子が形成されていない「感染性が無い時期」があり、2分裂による増殖をしないことなどが挙げられます。原核生物や真核生物の微生物は細胞構造があり、水分や栄養分などが存在すると2分裂による増殖ができますが、ウイルスは粒子の構造や増殖過程が根本的に異なります(図2:微生物の増殖様式の違い)。
コロナウイルスの仲間
新型コロナウイルスの正式名称はSARS-Cov-2です。SARS-Cov-2はコロナウイルス科に属するウイルスで、エンベロープを持ち、1本の+鎖(注1)のRNAを遺伝子として持つウイルスです。ウイルス粒子の電子顕微鏡写真を見ると、エンベロープのスパイクタンパク質が王冠のように見えたことから「コロナ(王冠)」ウイルスと命名されました(図4:コロナウイルスの構造)。
コロナウイルス科にはヒト以外にも動物に感染するウイルスが多く知られています。それらのうち、動物を介してヒトに感染するコロナウイルスもあります。例えば重症急性呼吸器症候群(SARS)を起こすコロナウイルスのSARS-CoVはコウモリからハクビシンを介して、また、中東呼吸器症候群(MERS)-CoVはコウモリからラクダを介してヒトに感染することが知られています。SARS-Cov-2にもコウモリコロナウイルスに類縁のウイルス遺伝子が見つかっていることから、コウモリからセンザンコウ、アナグマ、ミンクなどを介してヒトに感染したと考えられています(図6:SARS-CoV-2の感染経路)。中国の武漢ではSARS-CoV-2が感染した野生動物が市場に運ばれ、その動物の解体や調理をした方や、買い物客などに感染が広まったものと考えられています。
注1:1本鎖のウイルスゲノムRNAには+鎖(mRNAと同じ配列)あるいは—鎖(mRNAと相補的な配列)がある。コロナウイルスのゲノムは+鎖RNAである。
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