「不確実性のトランプ・ワールド」で円安?円高?2024.11.07

トランプ氏勝利で円安が加速

11月6日16時現在、メディアで米国大統領選の動向が盛んに報道されている中、本稿を執筆している。激戦州ペンシルベニア州でトランプ氏が優勢となり、「トランプ氏勝利」というのが現時点の大方の見方である。本稿が掲載される頃には結果は出ているであろうから、大統領選の詳細分析は他の専門家にお任せしようと思う。それよりも筆者が気になるのは、激動する円相場である。「トランプ優勢」と報じられるや否や円安・ドル高に振れ、一時期154円38銭と3カ月ぶりの安値をつけた(16:37日経速報ニュース)。トランプ政権になることで、外国製輸入品の米国関税が強化され、米国内でインフレが進み、同国の政策金利が上がる(日米金利差が拡大する)という思惑から、ドル買い円売りが起きるという構図である。先を見越したマネーゲームのような一時的な動きもあろうが、今後の円安加速は日本企業にとって大きな懸念材料である。というのも、年内に160円まで下落するという見解を示す有識者も一定数いるからである。他方で、米国の各種統計から米経済失速の兆しも見られ、トランプ政権であっても米国の政策金利は下がり、日銀は金利を上げる(日米金利差は縮小する)という逆の見方も存在する。さらに中長期的に見れば、トランプ政権は米国内の製造業を重視するため、対日貿易赤字を問題視する可能性があり、米国からの輸出に有利なドル安(円高)への誘導も否定できない。このように円・ドルの為替動向はいくつものシナリオが存在し、「不確実性のトランプ・ワールド」にしばらくは翻弄されるであろう。

「不確実性のトランプ・ワールド」の不安

読者の中には「円安は日本企業にとって好条件で輸出できるのでメリットが多いのでは?」と考える方もいるであろう。これは正しい側面もあるが、一概にそうとは言えない。紙幅の制限があり解説は割愛するが、1つの事例として本学が所在する京都の為替動向(円安)に対する捉え方を紹介したい。2024年8月2日~10月11日、京都海外ビジネスセンター(調査委託先:京都商工会議所)が「為替相場変動に関する京都企業の動向調査」を実施し、筆者の研究室が集計・分析に協力させていただいた。本調査のポイントを一部抜粋すると以下表のとおりである。この調査結果から、京都企業の多くは、円安はメリットよりもむしろデメリットであると感じていることが分かる。ウクライナや中東情勢の不安定化に端を発した燃料価格の高騰と、円安(輸入価格に反映)が長引くことで、原材料費が上がり、企業の経営に負担を強いている。また、企業が考える適正な円ドルレートを見ると、現行の為替動向と乖離しており、先に述べたトランプ政権の出方によっては、行き過ぎた円安がさらに企業を苦しめることになる可能性がある。 ビジネスが嫌うのは「先行きの不確実性」である。「不確実性のトランプ・ワールド」によって、円ドル相場激変・関税報復戦争・米中貿易摩擦などが起き、日本企業や地元京都企業のビジネスに悪影響が及ぶのではないか。米大統領選結果を見ながら、筆者の心配は尽きないのである。

適正な円ドル為替レート 全業種128円、製造業126.8円、卸売・小売業130.2円であった。適正為替を、調査期間中の円ドル平均レートの145.3円と比較すると、両業種共に約15-20円の差があった。
輸出入額の増減
  • 製造業:輸出額に関して「増加した」と回答する企業が減少し、円安による輸出増の勢いに減速傾向がみられる。輸入額に関しても漸減傾向で、円安のデメリット「原材料・商品仕入れ価格の上昇」の影響であろう。
  • 卸売・小売業:輸出額に関して増加傾向が維持されている。輸入額に関しては「大幅に減少している」企業が増えている。
円安のメリット、デメリットの具体的内容
  • メリット:製造業、卸売・小売業ともに、メリットは総回答数全体の30%以下に止まる。総じて「為替差益による収益増加」が挙げられ、卸売・小売業においては、「インバウンド需要の増加」と回答した企業が「為替差益増加」に次いで多かった。
  • デメリット:製造業、卸売・小売業ともに総回答数全体の70%以上をデメリットが占めており、特に回答した製造業の約9割が輸出または輸出入両方を行っているが、円安による輸出恩恵よりも「原材料・商品仕入れ価格の上昇」や「燃料価格の上昇」のほうが重くのしかかったものと推察される。

(出所:京都海外ビジネスセンター「為替相場変動に関する京都企業の動向調査結果(速報値)」)


参考

植原 行洋 教授

国際ビジネス、欧州経済・産業、中小企業の海外展開

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