間近に迫るアメリカ大統領選挙とその影響—最終盤の争点と選挙後の展望—2024.10.28
僅差の接戦
11月のアメリカ大統領選挙が、いよいよ間近に迫ってきた。にもかかわらず、今回の大統領選では僅差の接戦が続いている。7月には、暗殺未遂事件を受けて、共和党のトランプ候補に注目が集まったものの、その後民主党のバイデン候補が異例の選挙戦撤退を表明し、状況が一変した。代わって出馬したハリス候補の支持率が、大統領候補者討論会での好印象も後押しし、追い上げを見せてきた。ただ、最終盤を迎えて、実像が見えにくいハリス候補への不安から、トランプ候補がその差を縮めつつある。一部調査によると、スイングステートと呼ばれる激戦州でのトランプ支持がハリス支持を上回っているというデータも散見されている。一方、郵便投票の普及によって、期日前投票が進み、投票率上昇がもたらす影響が注目される。最終的には、勝敗を左右する激戦州(ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、ノースカロライナ、ジョージア、ネバダ、アリゾナの7州)で、しかも郡や地区レベルの選挙区において、僅差で大統領選挙人を獲得できるかどうかで勝者が決定するものと思われる。ここでは、最終盤で争点となっているテーマに焦点を当てつつ、大統領選後の展望を示してみたい。
内政面での争点:経済・不法移民・中絶問題
内政面での最大の争点は、経済である。コロナ後のインフレ拡大に伴う物価高は徐々に低下傾向を示しつつあるものの、各種経済指標はアメリカ経済が依然として強靱であることを示している。有権者の最大の関心事である経済政策については、ハリス候補よりもトランプ候補の支持率の方が高い。ハリス候補は、住宅購入の支援や子育て世帯への税額控除の拡充を掲げているのに対し、トランプ候補は富裕層を含む所得税の減税恒久化や法人税の引き下げを表明している。ただ、両候補ともに、格差拡大の解消と中間層への支援に向けた十分な施策を準備できていない。財源の議論は乏しく、すでにコロナ対策で肥大化した財政赤字の解消はほど遠い状況にある。移民政策をめぐっても、ハリス候補はトランプ候補に対し守勢に立たされている。トランプ候補は、民主党政権が不法移民の急増への対処を怠ったと攻勢を強める。いずれも現政権の政策批判であるため、そもそも現職副大統領とっては不利であることは否めない。したがって、ハリス候補は「バイデン政権との違い」をアピールして、懸命に批判をかわそうと試みている。一方、中絶問題は、女性票の獲得という新たな旋風を巻き起こしており、どのような影響を及ぼすのか興味深い。
外交面での争点:イスラエル=ガザ戦争・ウクライナ戦争・米中関係
外交面では、バイデン政権下でG7に代表される西側諸国との連携強化は進んだものの、紛争の解決や対立の緩和がみられず、手詰まり感が否めない。イスラエル=ガザ戦争は、すでに1年以上続いており、隣国レバノンやイランとの衝突に波及するなど、アメリカによる仲介も不調に終わり、停戦すら困難な状況に陥っている。また、ウクライナ戦争では、戦線の膠着状況が続いている。アメリカはウクライナに軍事支援を行いつつ、ロシアへの軍事侵攻には制約を設ける政策をとっており、戦争終結のための戦略や展望を描けていない。さらに、米中関係については、対話の窓口はあるものの、台湾問題や経済摩擦をめぐって両国は深刻な対立関係にある。最近では、米中対立に加えてロシアと北朝鮮の接近が見られ、一層緊張感が高まっている。一般有権者にとって、外交問題の優先順位は概して低いものの、国際情勢が緊迫するなか、アメリカによる対外関与のあり方が問われている。
新しいアメリカの誕生?
以上のような最終盤の争点を軸に、いよいよ11月5日に投開票が行われる。選挙結果を予測することはなお困難であるが、いずれの候補が勝利したとしても、「分断を前提とした」アメリカの新しい方向性が顕著となろう。民主党のハリス氏が勝利した場合、女性、アジア系で初の大統領となり、内政では中間層の構築を意識し、外交では同盟国との連携を重視した対外関与を進めていくだろう。共和党のトランプ氏が勝利した場合、内政では高関税政策や大型減税によって国内経済の再建を推進するとともに、外交では同盟国に一層の負担を求めつつ、圧倒的な力の誇示により対外関与の回避をめざすなど、アメリカ第一主義の徹底を図るだろう。
しかし、同時に忘れてはならない点として、移民の国アメリカが待ち受ける人口動態の変化がある。2040年代から2050年代には、全米でマイノリティーがマジョリティになる逆転現象が起きると想定されている。ただ、白人がマイノリティとなっても、全体的傾向としてアメリカ国民は国内問題への関心をより一層深めていくようにも見える。近未来の自画像に向けて、「未来志向の国・アメリカ」は果たしてどのような道を歩んでいくのか。その影響力を無視できないがゆえに、引き続き動向を注視していきたいものである。