欧州における極右勢力の躍進と移民政策の機能不全 2024.10.17

欧州各国の選挙で右派勢力が躍進

2024年6月の欧州議会選挙においてEU加盟各国で極右や右派が大きく勢力を拡大したことは記憶に新しいが、その後も各国で極右政党が支持を広げている。欧州議会選挙の大敗を受けて行われたフランスの国民議会(下院)選挙では極右「国民連合」が熱狂的支持を集め ※1、ベルギー下院選挙では北部オランダ語圏で極右「フラームス・ベラング」が第二党となった。オランダでは昨秋の下院選挙で第一党となった極右「自由党」を含む連立内閣が長期にわたる困難な連立協議の末、7月に発足した。
排外主義へのタブー意識が根強いドイツにおいてすら、移民排斥を叫ぶ「ドイツのための選択肢(AfD)」が東部2州で多くの支持をえた ※2 。さらに、9月末のオーストリア下院選挙でも、ナチス的な用語を使い、強い排外傾向をみせる極右「自由党」が第一党となった。

極右政党の“脱悪魔化”

欧州各国での極右政党の台頭は新しい現象ではなく、程度の差はあれすでに一定の安定的で継続的な位置をしめるようになっていたが、最近の動きからは、極右政党が「脱悪魔化」 ※3され、ポピュリスト政党として多くの国民に支持されていることがわかる。各国の国内政治、経済社会状況や国民の不満の大きさと連動して躍進や退潮の波があり、躍進の要因を単純化することは適切ではない。また、選挙という民主主義の根幹をなす過程において、民族的な属性や特定の集団の利益擁護を訴える政党の主張によって、実際には排外主義や差別、民族間の分断が助長されることは過去にも繰り返されてきたことではある。
それでも同時期にこれほど極端な右傾化が起こる背景には、移民問題への対応をめぐるEUレベル、各国政府レベルでの政策の混乱や失敗がある。不正確な責任転嫁やメディアの誤情報拡散による煽りが一因にせよ、多くの欧州市民が、好ましい政治的社会的状況や多数派としてのアイデンティティが「脅かされる恐怖」と強い「相対的価値剥奪感」を抱き、その原因を移民難民と、問題に対処できない自国政府やEUに向けている状況に、欧州は2010年代から一向に対処できていない。

移民政策の2つの領域と相互作用

移民難民にかかわる政策には、国境をこえる人の移動をコントロールする「出入国管理」の領域と、移住後の社会が移民をいかに受け入れるかの「社会統合」の領域の2つに分けられる ※4。政策領域としては別であるが、両者の不調は相乗効果的に作用する。国境管理がうまくいかないことで大量に流入した移民難民を、受け入れ社会が住居や労働、教育や言語、文化的軋轢などの問題に対処し、適切に統合することは難しい。社会統合の失敗や受け入れ社会での様々な軋轢は、結果として移民への不満や憎悪を増長し、より厳しい入国管理を主張する極右への支持拡大や、与党の政策自体の右傾化に繋がる。そして現下の厳しい国際情勢のなか、人の移動を完全にとめることができるわけではなく、悪循環が続いてきた。

EU移民政策の困難

「出入国管理」の領域おいては「シェンゲン協定」や「ダブリン規則」により一定の共通した政策をとってきたものの、実際にはEU各国の意思が強く反映されてきた。2024年4月に採択された「移民・難民についての新協定」によりEUとしての共通制度の適用が強化されるが、これは主にEU域内への入国厳格化に絞った内容となっている。一方、「社会統合」政策については、EUとしての共通化はほとんど行われておらず、各国の裁量に任されている。特に社会統合の前提ともいえる移民ルーツのマイノリティの文化的多様性の尊重については、国際人権規約や欧州人権条約などにより、一般的な人権尊重が求められるのみである。
しかし各国国民は、問題は「出入国管理」の領域で一部共通化しているEUの移民難民政策のせいであるかのように感じ、またそれを喧伝する極右勢力の選挙を通じた説得も作用し、一層移民難民に対する拒否感を募らせ、嫌/反EUともいわれる姿勢をみせる。結果としてEU各国の協力した対処はうまく進まず、寛容度が下がった受け入れ社会において社会統合政策はうまく機能せず、反移民感情は悪化し、その経費にすら批判的な目が向けられる結果、社会統合政策は一層困難になる。

移民難民ガバナンスの再構築にむけて

人の国際移動はとまらず、各国は強いられた移動者を庇護する義務を負う一方で、純粋に利他的な受け入れは難しく、各国社会が受け入れられる移民難民の数には限界がある。欧州としては、各国社会の多様なあり方をふまえつつも、「社会統合」領域の政策においてもより踏み込んだEUとしての対応を制度化し、2つの領域の負のスパイラルを断ち切るためのガバナンスの再構築という困難な課題に向き合う時期であるが、2024年欧州選挙年からみえる現実は極めて厳しい。


  1. 欧州議会選で極右「国民連合」がフランスで第一党となったことを受けて、マクロン大統領は急遽議会を解散し選挙が行われた。フランス独自の選挙方式も作用し結果的にはどの政党も単独過半数には至らず、左派連合、与党連合に続いて国民連合は第三勢力にとどまったが、国民議会の会派としては第一勢力となった。
  2. 2025年秋の連邦議会選挙の動向をうかがうとされた州議会選挙で、東部のチューリンゲン州でAfDは32.8%で第一党、ザクセン州では30.6%で第二党となった(第一党は中道右派のCDU31.9%で与党SPDは大敗した)。
  3. 極右政党が忌避すべき差別的な排外主義政党であるという印象を和らげ、広く国民に受け入れやすいマイルドな印象をもたせることを意味する。
  4. 出入国管理の分野では、移民と難民は区別して対応するべき性質をもち、欧州では出入国管理の部分はシェンゲン協定や難民の庇護についてのダブリン規則により共通のルールで「入域管理」がされる。一方で社会統合の分野では、難民であれ移民であれ、受け入れ社会での問題は本質的には同じである。

正躰 朝香 教授

国際関係論

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