グローバルに男女の政治的イデオロギー的分化が進んでいる!? 2024.09.19

保守化する男性?

国際女性デーを記念して31カ国の人々を対象に行われたIPSOS社(国際世論調査会社)の調査※1 によると、回答した若い男性の6割ほどがフェミニズムや男女平等に否定的で、女性の平等が男性にとってマイナスであると考えているらしい。
過去数年の間、似たような主張がそれなりに多く発信されています。

男女の政治的分化?

英語圏メディアでは女性の平等化を支持する側を「リベラル」と形容し、それに反対する側を「保守」と呼ぶことがあります。こうした表現方法を使ってAmerican Enterprise Instituteというやや右系のシンクタンクは、2011年に男女共に自称「リベラル」がほぼ同数(男性27:女性30)だったのに対して、2021年に差がかなり開いたことを示すデータ(男性25%:女性44%)を公開しました※2。【図1を参照】。

図1 Kyle Grey, 2022.'The growing political divide between men and womenより。

英Financial Times誌が2024年1月に掲載した記事がおそらくこれまで男女の政治的・イデオロギー的分化を主張する記事の中で一番注目を集めたものだと思います※3。この記事の著者も、18-29歳の若年層のデータを分析し、英国、ドイツ、米国、韓国などではいずれも若い女性のリベラル化と若い男性の保守化が顕著だ、と主張しました【図2参照】。

図2 J. Burn-Murdoch, ‘A new global gender divide is emerging’, Financial Times, 26 January 2024.

4月には米Time誌も韓国でこの傾向が際立っているとする記事を掲載し※4、中国に関しても類似性の高い研究成果が発表されています※5。こうした一連の報道や論文によると、世界のかなりの国や地域で女性のリベラル化と男性の保守化が若い世代の間で進んでいる。それが事実なら男女の平等化は単純に「保守的」=「古い」世代の交代によって時間と共に自然と達成されることではない、ということになります。

男女の政治的イデオロギー的分化を説明する

イデオロギーと社会状況

分化の原因を説明しようとする議論は多岐にわたり複雑です。丁寧に要約すると字数制限を超えてしまいますので、非常に簡単に2つだけ紹介しておきます。まず、保守主義を現状維持ないし復古主義を望む考え方、とすることができます。典型的に現状で優位に立つもの、あるいは最近まで優位に立っていたものが好むイデオロギーです。例えば、今ある家父長制社会において有利な男性たち、あるいは最近まであった家父長制社会において有利だった男性たちが、保守主義に魅力を感じても不思議はない、と言えます。逆に、保守されるのが男性優位を前提とする家父長制や性別分業体制であると考えたら、女性たちがそれに魅力を感じずに「リベラル」に傾斜することも予想されます。※6

オンライン世界における男女の併存

2つ目に、現代の若い世代の主な情報源がソーシャルメディアとなっていることにも注目が集まっています。マスコミの選択肢が少なかった時代には人々は同じようなコンテンツを消費していたので社会全体のレベルで共有情報が今に比べて多かったし、イデオロギー的な分化はそのことによってある程度緩和されていたと考えられる。しかしアルゴリズムがコンテンツを個人の選好に合わせて提案してくる現代において人々が消費する情報は多様化しています。共有情報の量が相対的に減っていて、コンテンツ消費は社会集団の統合ではなくむしろその分化や分裂を促すようになっている面があると指摘されています。ジェンダーや政治的イデオロギーの次元における男女の分化は、こうしたより大きなトレンドの一側面だと考えることができそうです。※7

政治的分化はリアルな現象なのか?

上記では男女の政治的イデオロギー的分化を主張する記事や論文を紹介し、その分化の説明を試みる議論にも簡単に触れました。しかし、そもそも男女の政治的分化が本当に進んでいるのか、懐疑的な声のあることに最後に注目したい。

図3 Allen DownerによるFinancial Timesの図2の表の修正版.

データ分析の世界で有名なアレン・ダウニー氏はFinancial Timesの記事で行われたデータ操作を問題視する。同じデータを使ったダウニーの分析だと1990年代以降、男性も女性もリベラル化している。女性の方が確かにややリベラルだけれども、差は特に開いていない※8。他にもハーバード大学を拠点とする大規模な選挙研究Cooperative Election Study(https://cces.gov.harvard.edu)も同じように、若い男性と女性の差は報道されているほど拡大していないとする。【図3.4参照】

科学的知識の形成事例

男女の政治的・イデオロギー的な差は存在しているけれども、それが拡大しているのか否かと言う点に関してはまだジャーナリズムの世界でも学問の世界でもコンセンサスが得られていない、というのが現状です※9。確実性のない満足のいかない話と感じる方もいるかもしれませんが、このように議論が繰り返されてこそ、科学的知識が生み出されていくのです。議論が活発であることは、科学知識生成の観点からすると歓迎するべきことなのです。


  1. Ipsos, 2024. International women’s day 2024. Global attitudes towards women’s leadership, March 2024,.
  2. Kyle Grey, 2022. 'The growing political divide between men and women' 31 May 2022,.
  3. John Burn-Murdoch, 2024. ‘A new global gender divide is emerging’, Financial Times, 26 January 2024.
  4. Richard V. Reeves, 2024. ‘The global gender divide we really should be talking about’, Time, 6 April 2024.
  5. Rujun Yang, 2023, ‘Mosaic of beliefs: comparing gender ideology in China across generation, geography, and gender’, International Journal of Comparative Sociology, Vol. 64, Issue 5.
  6. Ronald Inglehart and Pippa Norris, 2000. ‘The developmental theory of the gender gap: women’s and men’s voting behavior in global perspective’, International political science review, Vol. 21, no. 4, October 2000.
  7. Josie Cox, 2024. ‘Stark gender gap persists among young people’s attitudes toward feminism, survey shows’, Forbes, 5 February 2024. ステレオタイプで言うと男性はユーチューブやDiscord、女性はティックトックやPinterestと言われますが、オンライン上のコンテンツ消費にはかなりはっきりとしたジェンダー差が見られる。 Michell Cottle, Ross Douthat, Lydia Polgreen, 2024. ‘The gender split and the “Looming Apocalypse of the Developed World”’ (podcast) The New York Times, 02 February 2024も参照.
  8. Allen B. Downer, 2024.‘In the ideology gap growing?’ 28 January 2024,.
  9. Zac Beauchamp, 2024. ‘Are men and women growing apart politically? Not so fast. Vox, 13 March 2024.

マコーマック ノア 教授

歴史社会学、比較文化論

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