急接近するロシアと北朝鮮 2024.06.28
包括的戦略パートナーシップ条約の締結
ロシアのプーチン大統領は、去る6月19日に北朝鮮を訪問し、首脳会談などを終えたあと、20日にはベトナムを訪れた。先月には中国の北京にも行っているので、大統領5期目に入ったプーチン氏は、いよいよ外交に本腰を入れ出したように見える。まずはロ朝関係についてはどう評価し得るだろうか。 今回、最も注目されたのは「包括的戦略パートナーシップ条約」が結ばれたことである。北朝鮮側は直ちにその全文を公表したが、第3条では、いずれかが武力侵略の脅威に直面した場合、両国は直ちに協議を行うこと、第4条では、いずれか一方が武力侵略を受け戦争状態に陥った場合、他方は国連憲章と両国の法に準じて、遅滞なく、あらゆる手段で軍事的支援などを行うことが定められている(『讀賣新聞』2024年6月21日より再引用)。 こうした条文をみる限り、両国は実質的な軍事同盟関係に入ったといえるだろう。冷戦時代のソ連と北朝鮮がそのような関係だったが(両国は1961年に「友好協力相互援助条約」を締結)、それに復帰したわけである。
同盟関係のメリット
このような同盟関係は、両国にとってどのようなメリットがあるのだろうか。まず軍事面における支援という面では、すでに北朝鮮がロシアに対して行っていることが明らかになっている。ロ朝両国は認めていないものの、各種メディアが報じているとおり、国連安保理の専門家パネルや、米国、韓国等の分析によれば、北朝鮮製の砲弾や短距離ミサイルがウクライナに着弾しており、北朝鮮からはロシアに500万発程度の砲弾が提供されたとの推定もある。北朝鮮がロシアの「武器工場」化しているとする見方すらある(『日経新聞』2024年6月19日)。
今回の新条約は、こうした北朝鮮によるロシアへの軍事支援を法的にも正当化するものといえるだろう。ただし、北朝鮮軍がウクライナ戦争に参戦している事実は確認されていないし、プーチン氏自身も今回のベトナムでの記者会見のなかで、北朝鮮兵士をウクライナに派遣する必要はないと断言している。
では、北朝鮮側が得られるロシアからの軍事支援とはいかなるものなのだろう。いま北朝鮮が力を入れているのは軍事偵察衛星、核弾頭、ミサイル等の開発である。衛星に関しては、昨年9月に北朝鮮の金正恩総書記が訪露して以来、ロシア側の技術提供が積極化したと伝えられている。核・ミサイル開発に関しては、国連安保理が(ロシアも賛同し)、ミサイル発射や核実験等に対する制裁決議を採択していたが、近年、ロシアは中国とともに、この制裁を強化する案を拒否権の行使によって否決している。また、今年3月には、北朝鮮に対する制裁状況の監視を行ってきた国連安保理の専門家パネルの任期延長を、ロシアが拒否権を発動し否決したこともニュースで報じられた。
ロシアは国連の決議から離脱し、北朝鮮の核・ミサイル開発を容認する側に転じたといってもいいだろう。この点では、中国は北朝鮮に対し比較的厳しい姿勢を崩していないため、ロシアは北朝鮮にとってまことに頼り甲斐のあるパートナーということになる。
ロシアと中国の北朝鮮に対する温度差
中ロの間には、北朝鮮との関係に関して温度差があると見ることもできる。そもそも中国は、歴史的にも北朝鮮に対し長兄として振る舞うところがあり、核・ミサイル開発についても中国のコントロールが及ばなくなることを嫌ってきた。それに中国は、台湾問題では米国と激しく対立しているが、欧米との関係悪化を恐れ、国連を重視する姿勢をとっている。ただ、中国の場合は、国連を重視しつつ、その内部で(グローバルサウスを味方につけながら)自らの勢力を浸透させる戦略をとっているといえるだろう。
それに対してロシアや北朝鮮は、国連決議を軽視し(ともに制裁を科せられている国だということもあるが)、いわば現状の打破を目指す点で利害が一致していると考えられる。また、北朝鮮の金正恩政権にとっては、ロシアは北朝鮮の内政に中国ほど干渉しないという安心感もあるのではなかろうか。
ロシア独自のユーラシア政策
つまり、ロシア、中国、北朝鮮による3国同盟的な形にはならないとみてよいのではないか。ロシアにはロシアなりの国益や思惑があり、中ロ関係にしても決して一枚岩だということはない。プーチン大統領が北朝鮮訪問のあとにベトナムを訪れたことにもそれは見て取れよう。
昨今のベトナムは、中国との関係を深化させているけれども(昨年末には中国の習近平国家主席がベトナムを訪問しているのもその表れ)、1979年には中越戦争が起こるなど、歴史的にベトナムと中国は容易ならざる問題を抱えてきたのである。それに対し、ソ連はベトナムと特別な友好関係を築いてきたし(ベトナム戦争時における支援等)、現在もベトナムの武器はロシアに大きく依存している。
ウクライナ戦争以来、ロシアは天然資源の売買などを通じ、中国への経済的依存度を高めてきたが、ベトナムや、さらには東南アジアとの連携を強め、中国以外のパートナーを増やそうとしているように思われる。
プーチン大統領は訪朝前に、朝鮮労働党機関紙の『労働新聞』(6月18日付)に寄稿しているが、そのなかで「われわれは、ユーラシアにおいて、平等で不可分な安全構造を構築していく」と述べていたことに注目したい。この「ユーラシア」という語にロシア独自の戦略が込められているように思われるからである。
実はプーチン大統領は、5月26~28日に、中央アジアのウズベキスタンを訪れ、エネルギー分野での関係を強化している。プーチン政権は、ユーラシア圏における新秩序形成という大きなヴィジョンに向かって動き出しつつあり、北朝鮮・ベトナムの訪問もその一環だと考えていいのではあるまいか。