外国語学習とスポーツ・トレーニングの共通点 2024.03.26

運動と語学はなかなか長続きしない…

4月。春の陽気に誘われて、何か新しいことを始めようと考える人は多いのではないでしょうか。私の周辺でよく聞かれるのが英語の学び直しや新たな外国語への挑戦。4月は新学期の雰囲気やNHKのラジオ語学講座などの語学の講座も始まり、語学を始めるには最適な時期と言えるでしょう。夏休みには海外旅行で現地の言葉を話して少しでも交流を楽しみたい。多くの人が抱く憧れだと思います。
語学の学習と同じくして、そろそろ運動でも始めようと考える人も多いと思います。春は、お正月から続く運動不足で体重が増え、寒さで躊躇していた運動もそろそろやってみようかと思う季節でもあります。河川敷などではカラフルなウエアに身を包んだランナーが颯爽と走り去る姿に、自分もあんな風に走れたらいいのに、と羨望のまなざしを向ける人もいるのではないでしょうか。薄着になる夏までに少しでも体型を整えたいと思いを巡らす人も多いのかもしれません。

この二つには有名な共通点があります。始めたはいいけど、長続きしないことです。
語学は初めの数ヶ月は初期投資もありなんとか続けるのだけど、徐々に内容が難しくなり結果がある程度出る前に面倒になってやめてしまうことが多いのです。NHKのラジオ講座も4月号はたくさん売れるのですが、5月号、6月号となるとだんだん売れなくなり、最終号まで購入する人はほんの一握りということもあるそうです。根気よく続ければNHKのラジオ講座ほど手軽に安く続けられる学習手段は他にあまりないのですが、それでも最後までやり通すことは難しいようです。 運動も同様です。特に球技はなかなか上達しません。テニスであれば、ウエア、シューズ、ラケットなどを購入し、こちらも初期投資が結構な額になるので、それを取り返そうと初めは真剣にやるのですが、そのうちに腕が痛い、脚が痛い、走るのがしんどい、などの理由で徐々に足が遠のきます。学生時代にやっていた人でもよほどメンバーや環境に恵まれない限り、長く継続的に続けるのは難しいようです。

やり続ければ楽しくなる!

この二つ、継続的に長く続けることができないという点で共通しているのですが、共通点はそれだけではありません。継続的に長く続ければ、それなりに結果が出て楽しくなるという点でも共通しているのです。運動は、そもそも運動能力の高い人は有利に働くかもしれませんし、人と交流するのが好きな外交的な人は外国語の習得に向いているかもしれません。それでも、それぞれ高い能力をもっていなくても、ある程度の結果や能力の向上を実感できるのが運動と語学の共通した素晴らしいところなのです。

具体的なお話をしましょう。サッカーであれば、とりあえずボールを足で蹴ってみることから始めます。相手にまっすぐ蹴るのは結構難しいし、来たボールを足下で止めるのはもっと難しい。何度も練習するのですが、なかなか上達しません。そこでコーチにコツを教わります。すると、以前よりはまっすぐ蹴られるようになり、ボールもなんとか止められるようになります。でも、これだけでは実践では通用しません。走りながらこれらの動作ができないとサッカーにはならないのです。止まってやる動作と動きながらやる動作は全く違うので、より難しくなります。このレベルでさらにボールを奪いに来る相手がいたらどうにもなりません。試合をするにはまだまだ時間がかかりそうです。
外国語学習はどうでしょうか。言語にもよりますが、まずは文字の習得が肝心な言語もあるでしょう。話したり聞いたりする前にまずは文字が読めなくてはなりません。文字は分かっても発音の仕方がわからなければテキストも読めません。そこで、先生に効率的な文字の読み方や発音方法を教えてもらいます。すると徐々にテキストにある文字が読めるようになり、発音も少しはできるようになります。でも、学んだ内容を実際に先生に話しかけられたり、自分から覚えたフレーズを話そうと思ってもなかなかうまくできません。実際の会話ができるようになるまでにはまだまだ時間がかかりそうです。

困難に直面、でもその先には光明も

両者ともここまで来るのに結構な時間と手間をかけています。場合によってはお金もかけているでしょう。しかし、だいたいこの段階でかなりの人が辞めてしまいます。ここまでやってまだこの程度、まだまだ先が長く、なかなか成果が見えてこない。どこまで続ければ話せる(ゴールを決める)ようになるの? 疑心暗鬼から続けるのが面倒になります。それでも継続的に長く続けると、徐々にですが必ず光明が見えてきます。
 どうやらサッカーをするにはボール扱いだけでなく、走力も重要だと思い始めます。動きながらボールを扱うには基礎体力の向上が不可欠だからです。昔から走るのが嫌いでマラソン大会が大嫌いだった人もいるでしょう。でも走れなければサッカーになりません。面倒でも毎日数キロ走ったり、ダッシュなどを繰り返します。すると、基礎体力が向上し、余裕を持ってボール扱いの練習ができるようになります。走りながらでも脚がもつれることなく、しっかりパスが出せるようになります。

語学でも、ヨーロッパの言語であれば、動詞の活用や名詞の格変化など莫大な文法事項があり、とても全部覚えられる気がしません。文法だけでも大変なのに、語彙も覚えなくてはなりません。昔から無味乾燥なものを覚えることを苦手としていた人にとって、これらを覚える大変な作業です。
でも、これだけでは実践では通用しません。走りながらこれらの動作ができないとサッカーにはならないのです。止まってやる動作と動きながらやる動作は全く違うので、より難しくなります。このレベルでさらにボールを奪いに来る相手がいたらどうにもなりません。試合をするにはまだまだ時間がかかりそうです。
これらの苦行を乗り越え長く継続的に続けることができると、語学もスポーツも確実に楽しくなってきます。人によってはストイックに極めるところまで突き進む人もいます。
草サッカーレベルであれば確実にレギュラーでしょうし、試合をすれば勝利に貢献できるようなプレーができるでしょう。チームメイトから称賛され続けるモティベーションがさらに上がります。テニスであれば市民大会に出場して、小さなトーナメントであれば優勝できるかもしれません。同じようにランニングを続ければ、そのうちに42.195キロのフルマラソンに参加。いずれはサブ3(3時間を切ること)にも挑戦するようになります。
語学であれば留学などを目指す人もいるでしょう。現地の語学学校や大学に入学して本格的に語学を極め、将来は語学力を活かした仕事に就きたいと思うようになるかもしれません。そこまででなくとも、語学検定試験にチャレンジし、難関の級やスコアを目指すようになります。

運動も語学も人生の質の向上に貢献

結局「苦行」を克服しないといけないのか、と思うかもしれませんが、これら二つのことは人生の質を高めることにも貢献します。
語学を学べばそれまで全く知らなかった世界を経験することができます。海外の人と交流することでその後の人生の方向性も変わるかもしれません。次から次へと新たなことを学べるので学びに終わりはありません。一生の趣味、または仕事になるかもしれません。さらに、語学を学んでいる人は好奇心旺盛で向上心が高い人が多いのも特徴です。留学先や語学学校などで素敵なパートナーと出会う確率も高くなるでしょう。
スポーツを続けるとケガもありますが、しないよりも確実に健康になります。体形の維持にもつながり、体力があるので仕事や勉強にも前向きになれます。もちろん、チームスポーツ(または団体に所属)であれば仲間が増えます。そもそもスポーツを継続している人は上昇志向の高い人が多いので、違った環境の仲間と交流すると良い刺激になり向上心が芽生えます。こちらでも優良な人生のパートナーと巡り合うことになるかもしれません。
もちろん、無理は禁物です。精神的なバランスを崩したり大けがをしてしまったら元も子もありません。しかし、せっかく始めたのだから苦行も含めて運動も語学も楽しむ姿勢は大切です。学生のうちはいいのですが、社会人になると人間関係が固定化し、職場以外での交流が激減します。家族、職場以外で自分の居場所や打ち込めることを、できれば長く継続的に行うことで生活の質を向上させることができます。
手軽に始められ、長く楽しくお付き合いができる。多少の困難はあるけど、それを乗り超えたときの達成感も味わえる。さらに健康や教養も手に入り生活の質が向上する。スポーツと外国語学習はこんなにも素晴らしい共通点があるのです。

下田 幸男 教授
外国語学部 ヨーロッパ言語学科 スペイン語専攻

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