自主制作映画に情熱を傾ける!外国語学部4年次生・寺尾 都麦さんインタビュー

映画撮影の様子。右から2番目で脚本を手に持つのが寺尾 都麦さん。

NetflixやHuluなど動画配信サービスも流行し、以前より映画を観る機会が増えた方も多いのではないでしょうか。本学に自主制作映画を撮っている学生がいると聞きつけ、外国語学部4年次生の寺尾 都麦さんを訪ねました。寺尾さんはこれまでに長編2作品を制作。最新作の『キャンバス』は、東京のミニシアター「下北沢トリウッド」での上映(2月21日)を⽪切りに、京都・新風館にある「アップリンク京都」(3月4日)、⼤阪・十三の「シアターセブン」(3月11日)での公開が決定しています。映画監督を志した経緯から最新作の制作秘話まで、映画に対する熱い思いをじっくりと聞きました!

映画館のない街で育った寺尾さんが映画を好きになったきっかけ

寺尾さんは北海道の東部(道東)の出身。一番近い映画館に行くにも車で2時間かかる、のどかな街に住んでいました。中学生の頃、お父さんが車でTSUTAYAまで連れて行ってくれたことをきっかけに、映画好きになりました。映画を大量にレンタルしては、毎晩のように自室でこっそりと観続ける日々。どんどん映画にのめり込んでいったそうです。
京都産業大学に進学し、大学3年次のある日、「自分で映画を撮ろう」と思い立ちました。その第1作目が『ブルートピア』という作品です。

初めての監督作品『ブルートピア』で、大学生の心の葛藤を描く

どうせ撮るなら観る人に届く作品にしたい。でもそれは1人では難しそうだと考えた寺尾さんが、最初に行ったのが制作メンバーを集めることでした。学内外から映画制作に興味を持ったメンバー13人が集まり、⾃主映画制作団体「natsumeki films(ナツメキフィルムス)」が誕生しました。
『ブルートピア』のポスタービジュアル。
『ブルートピア』は、大学生2人が主人公の映画です。音楽の道を志す理想主義の男子と、夢を追う人を馬鹿にして生きる現実主義の女子。物語は並行して進み、真逆の性格の2人が、さまざまな葛藤を抱えながら生きていくさまを描いています。
「ブルートピア」は、理想郷を意味する「ユートピア」とその逆の世界を意味する「ディストピア」にちなみ、寺尾さんが作った造語です。大学生なら誰しも感じたことがある「好きなことをしていたい。けれど、就職や金銭事情など現実が迫ってくる」といった大人と子どもの狭間に生きる大学生の心の葛藤、センチメンタルな気持ちをブルーという色で表現し、「ブルートピア」という言葉が生まれました。

寺尾さんは、そんな大人になる半歩手前のリアルな葛藤を描き出すため、主人公と同じ大学生である「natsumeki films(ナツメキフィルムス)」のメンバーから、あらゆる葛藤のエピソードを聞き、脚本に反映したそうです。

そうして出来上がった作品は、2022年3月にウィングス京都にて2日間上映。約150人を動員しました。映画を観た学生の1人が寺尾さんの元に駆け寄り、涙を流しながら感想を伝えてくれたそうです。他にも、『ブルートピア』を観た人のブログには「この作品に自身の存在を救われた」という言葉もありました。
寺尾さんは当時を振り返りながら「実はこの作品が最初で最後の監督作品だと思って作っていたんですが、それらの感想を受けて『これからも映画を撮り続けよう』と心に決めました。実際に上映してみると、『あのシーンはもっとこうしたかった』などたくさんの反省が残りました。もっと納得のいく作品を撮りたい。そして良い作品で、誰かを救えたらと思い、すぐに次作へ取り掛かりました」と、話してくれました。

2作目『キャンバス』での苦労と映画への愛

『キャンバス』のポスタービジュアル。
寺尾さんの2作目は『キャンバス』という作品です。「1作目『ブルートピア』が人の心に刺さったのは、恥ずかしい部分も含め自分自身の内面を嘘なく脚本に書いたからだと思いました。そこで、今の自分と向き合って、"つくる"をテーマにすることにしました」。

新型コロナの流行で、芸術は不要不急なものとして位置付けられました。現代では、つくることに理由が必要とされ、つくったものに価値を説明する義務があり、つくる人の思いが、誰かを傷つけてはならない。そんな窮屈な世の中になっていると寺尾さんは語ります。
「"つくる"はもっと純粋で、もっと自由で良いのだと主張したい。だから、祈りを込めてこの映画をつくります」。

『キャンバス』の制作期間は約1年。一番大変だったのは資金調達だったそうです。機材購入費、ロケ地のレンタル費、小道具費、スタッフへの謝礼や交通費など、初期投資に200万円が必要でした。仲間でお金を出し合い、企業に協賛を募り、クラウドファンディングを行いつつも、その初期投資は大きすぎる金額でした。寺尾さんはその間、1日1食だけの納豆ご飯生活をするほどだったそうです。
『キャンバス』の撮影時。
資金調達に苦労しながらも、制作への勉強も欠かしませんでした。映像学部生でもない普通の大学生だった寺尾さんが、どんな勉強をしているのかと質問したところ、年間300本以上の映画を観て、ストーリーの展開から画角の作り方まで、全てメモを取っているそうです。また、日常生活のささいな場面でも人の感情が動くきっかけなどは細かく記憶し、その場で脚本の種を作ったりします。「映画には教科書がないからこそ、日常が勉強になります。映画漬けの毎日ですが、大好きなので全く苦じゃないんです」と寺尾さん。 とはいえ、苦労も多い日々。なぜ、これだけの努力ができたのでしょうか。 「自分の作品が世の中に必要だと信じること。自分の映画をどれだけ愛しているかが大事だと思います」と寺尾さんは教えてくれました。

---作品情報---
『キャンバス』
長編、78分/監督:寺尾都麦/自主上映
2023年2月21日(火)下北沢トリウッド(東京)
2023年3月4日(土)アップリンク京都(京都)
2023年3月11日(土)シアターセブン(大阪)
チケット申し込み:上映会申込フォーム

【ストーリー】
絵を描くことを生きがいとする大学生の「はる」は、1冊のスケッチブックを拾う。それは、はると同じ油絵を描き、その絵を他者に評価されることを恐れる水野ほたるのものだった。お互いの中に居場所を見つけた2人は作品を見せ合い、共に描いた。しかし2人にとって“描く”とは、そして“つくる”とはどういうことなのか。全てのツクリテと、自分の愛するものに向き合う全ての人に捧げる、天才に産まれて来なかった人間たちの淡い青春ドラマ。
Instagram:https://www.instagram.com/canvas_.film/
note:https://note.com/2022_hikari/

寺尾さんが将来撮りたい作品

4年次生の寺尾さん。卒業後は、映画とは異なる仕事をしながら、志を同じくしたメンバーとクリエイティブチームを立ち上げ、創作活動を続けていくそうです。
将来の夢を聞くと、「地元・道東のロードムービーを作ることです。映画を通じて、道東をはじめとした地方に生きる人々、子どもたちに何かを還元したい」と語ります。
映画を撮る寺尾さん。
寺尾さんは15歳まで道東で過ごしました。映画に出合うまでは、本当に大切なものがない自分をダメな人間だと思い込み、少し生きづらさを感じていたそうです。人と自然が共存する道東は、人々があたたかく、美しいところである一方で、映画館や美術館もなければ、習い事や学校の選択肢も決して多くはありません。
寺尾さんは、地元を出て札幌の高校に進学しました。そこで、土地によって子どもたちに与えられる機会の差に愕然としたそうです。「自分のように街を出ることだけが正しいなんて思ってるわけじゃないんです」と寺尾さんは語ります。ただ、地方で過ごす子どもたちの中には、もしかするとかつての自分のように自分のアイデンティティを捉えることができずに思い悩んでいる子もいるのではないかと感じるそうです。
「もし子どもたちに選択肢がたくさんあって、“好き”や“嫌い”を判断できる機会が多かったら、もっと自分の声を聞けるはず。そしてその経験が、きっと人生の大切な居場所や支えになってくれる。私は映画を好きになって、自分の居場所を見つけました。今度は私が映画を通して、そんな子どもたちの“ちいさな機会”を増やしてあげたいと思うのです。そしてその中にたった1人でも、自分の作った映画をきっかけに居場所を見つけてくれるような方がいたら、自分が映画を作り続ける意味はたしかにそこにあると思います」。



寺尾さんにとって、映画制作は全く初めての分野への挑戦でした。それでも努力を苦と感じず、楽しんでいる姿が印象的でした。私も大学で新しくのめり込めるものに出合うことができましたが、挑戦する時はちょっぴりのワクワクと大きな不安を感じていました。その大きな不安をどう解消し、力に変えていくのか、今回の寺尾さんのお話がとても心に響きました。何か新しいことを始めようと思っている皆さんも、ぜひ参考にしてほしいです。
映画に夢中になった寺尾さん。でも、たとえ出合ったものが映画でなくても、きっと何か別の形で、世の中に発信をしていたのではないかと思います。映画はあくまでも手段であり、伝えたいメッセージが大事。寺尾さんの夢を私も一緒に応援したいと思いました。

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