理学部 伊藤 豊 教授らの共同研究グループが銅酸化物Hg1201に強いクーロン斥力を発見

2018.01.30

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ニュース研究理学部

研究成果

理学部物理科学科の伊藤 豊 教授は、産業技術総合研究所の町 敬人 研究員と芝浦工業大学の山本 文子 教授との共同研究で、単位胞内に銅と酸素の2次元正方格子を1枚しか含まない単層系の高温超伝導体HgBa2CuO4+d(Hg1201)において強いクーロン斥力が効いていることを発見したと発表しました。この研究成果は、アメリカ物理学会発行の学術誌Physical Review Bの本論文として2017年12月13日付けオンライン版に掲載されました。

掲載論文

Title : Magnetic susceptibility in optimally doped HgBa2CuO4+d
邦題:最適ドープされたHgBa2CuO4+dの帯磁率
Authors : Y. Itoh, T. Machi, A. Yamamoto
著者: 伊藤 豊,町 敬人,山本 文子 Phy. Rev. B Vol.96, No.23, 235118 (2017)
DOI: 10.1103/PhysRevB.96.235118URL: https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevB.96.235118

背景

銅酸化物高温超伝導体は1980年代中期に発見されたセラミックス超伝導体で、銅Cuと酸素Oのイオンの正方格子(CuO2平面)が層状に並んだ電気伝導性酸化物です。Hg1201は結晶の単位胞内にCuO2平面を1枚しか持たない系(単層系)の中で最高の転移温度Tc = 98 Kをもつ化合物であり、1980年代の最初に発見された超伝導体La2-xSrxCuO4(LSCO)のTc = 38 Kの約2.5倍の高い転移温度をもっています。
21世紀になってからコンピューターを使った第一原理計算により高温超伝導体の伝導電子どうしのクーロン斥力Uの値が数値的に求められるようになりました。それによると高いTcの物質群ほどより弱いクーロン斥力Uをもつことが予想されていました。固体の中のたくさんの電子どうしのクーロン斥力は遮蔽効果など複雑な効果によって裸の電子の素電荷から期待される静電気力よりも弱くなることは知られていましたが、どれくらいの強さになるか正確な評価が困難な量となっています。

研究概要と展望

今回、Hg1201が1テスラの均一な磁場によってどれくらい磁化されるかを測定することで伝導電子の磁気的な分極率(一様スピン帯磁率)を評価し、それをバンド理論と呼ばれる理論計算と比較したところ3-4倍ほどの増強効果(ストナー増強)を見つけました。LSCOでは2倍ほどの増強効果が知られていたので、LSCOよりもHg1201の方がTcだけでなくクーロン斥力の効果も大きいことがわかりました。理論計算と今回の実験結果は矛盾しており、この物質群の電子状態の理論的理解が未だ困難であること、それは量子力学的多体問題の難しさを示しています。 

用語解説

一様スピン帯磁率…時間的に一定な均一な静磁場を外から物質にかけたときのその物質の帯びる磁場の強さ(磁化)を静磁場の大きさで割り算した量であり、磁化率とも呼びます。

量子力学的多体問題…電子1個1個は量子力学に従うが、たくさんの数の量子力学的な粒子が集まると互いの複雑な動きに個々の粒子が影響を受けるために、全体として発現する様々な電子物性を正確に理解することが困難になってきます。量子力学は元素の周期律表を説明するだけでなく、元素を組み合わせた物質の性質や機能をミクロに理解することを目標にしてきました。コンピューターを使った数値計算や新しいアイデアの理論モデルなど理論的な研究がいまも続けられています。

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